くるまのなかで
由美先輩はいかにも久しぶりに会った友人に会ったという感じに振るまい、とびきりの笑顔で手を振って休憩室を出て行った。
私も同じように笑顔を作っているつもりだが、上手にできていただろうか。
由美先輩と話している間、断続的にアウトレットで受けたショックをフラッシュバックしていたから、あまり自信がない。
「コバリノ、大丈夫?」
清香先輩が心配して肩に手を添えてくれた。
布越しに染み込んできた体温に溶かされ、自分がガチガチであることに気づく。
「大丈夫です。驚きましたけど」
「あたしもビックリした。もしどこかで由美に会ったら、音信不通になったこととか奏太のこととか、色々文句言ってやろうって思ってたのに。何も言えなかったよ」
由美先輩が出て行った扉を見続ける清香先輩の、憂いを含んだ笑顔に胸が疼いた。
恋人を亡くして音信不通になった親友を、彼女はずっと案じていたはずなのだ。
再会は喜ばしいはずなのに、私のせいでこんなことにしてしまった。
「文句なんて、必要ないですよ。私たち、別にケンカしているわけじゃないんですから」
「ケンカじゃなくても、ちゃんと戦わなきゃ」
「え?」
「由美に何を言われても、奏太のこと諦めちゃダメだよ。譲ったりしちゃ、絶対にダメだからね」
いつもニコニコ笑顔でテンションの高い清香先輩が、いつになく真面目な眼差しで私を励ましてくれている。
「わかりました。絶対に諦めません」
私の言葉を聞いて安心したように微笑んだ清香先輩は、時計を見て慌てて下の子の保育園のお迎えに向かった。