くるまのなかで
彼の姿、におい、体温。
それらの情報が、一気に由美先輩の話のイメージを完成させていく。
奏太と触れ合うほどリアルになっていくのに、しがみついていないと潰れてしまいそうだ。
「梨乃。泣かないで。梨乃は何も悪くないんだよ」
そんなこと言って、自分だって泣きそうな顔をしているくせに。
「だって……っ、私のせいで、モト先輩は……!」
「梨乃のせいじゃないよ」
「私……大学っ、ほんとは推薦、もらえなかったって……」
「ううん、梨乃はちゃんと、推薦されるべき生徒だった」
支離滅裂な私の言葉でも、奏太は察して言葉を返してくれる。
「だから奏太、私と別れたって……!」
「違うよ。違う。俺のせい。俺があんなだったから、不良だったから、俺のせいで梨乃が推薦もらいそびれるところだった。俺がちゃんとしてれば、別れる必要なんてなかったのに」
「でも……っ!」
私がそれ以上の言葉を出す前に、両頬を包まれ口を塞がれた。
優しいキスを繰り返され、不思議と力が抜けていく。
涙は止まらないが、私の呼吸が落ち着いたところで、奏太が再び私を包む。
彼の服の肩のところに、私の涙で取れたマスカラやアイメイクが染みてしまっている。
「野中先生に梨乃の推薦の話を聞いてから、俺はすぐに決断できなかった。どうしていいかわからなくてモトに相談したら、殴られた」
「えっ……」
殴られたって、なんで?
私の驚いた顔に、奏太は情けなく微笑んだ。