くるまのなかで
ふと思い立ったように奏太が言った。
「梨乃、少し出掛けようか」
「えっ、もう12時過ぎてるよ?」
むしろもうすぐ1時になろうという時刻だ。
奏太は立ち上がって、明日のことなど気にしないというふうに私の腕を引く。
「いいから。ほら、立って」
「でも私、化粧ボロボロ……」
化粧どころか、泣きすぎて顔もかなり酷いはず。
奏太だって、私のせいで服が汚れている。
「いいからいいから」
引きずられるように部屋を出て、アパート近くの月極駐車場に停まっている奏太のシルビアへ乗り込んだ。
彼の車に乗るのは久しぶりだ。
しばらく乗っていなかったから、このシートの低さに戸惑ってしまった。
住宅地から逃げるように、夜の道を走り出す。
奏太と私は言葉を交わさず、似合わぬアップテンポの曲が間を繋いでいる。
ほとんど車通りのないこの時間は、信号にもほとんど引っ掛からない。
車はどんどん人気のない地域へ進んでいく。
街灯の少ない怪しい山道に差し掛かり、道の先にはラブホテルのけばけばしいネオンが見え始めた。
目的地を理解した私は、ふと運転席をうかがう。
奏太は穏やかな表情で、坂を上るため、滑らかにギアをチェンジした。
山道を登って目的の公園に入り、広い駐車場を抜けて展望駐車場へ。
今夜も他の車はいない。