くるまのなかで

奏太はひとしきり笑って、一度大きく息をついた。

「ごめんごめん。でもからかってるわけじゃない。由美はモトのことを忘れるために一度地元を捨てたから、今さらどんな顔してみんなに会っていいかわからないって、ずっと友達にも連絡できなかったんだよ。でもせっかく梨乃と清香に再会したんだし、いいきっかけかなって」

「そういえば、奏太はどうやって由美先輩と再会したの?」

清香先輩にも連絡しなかったのに、奏太にだけ……なんて、やっぱりおかしい。

「虫の知らせってわけじゃないけど、休みの日に思い立ってモトの墓参りに行ったら、偶然由美とカズも来てて」

偶然、か。

「それって本当に偶然なのかなぁ」

モト先輩の何かしらの力が働いたのだとしか思えない。

信頼する心優しき親友に、偶然という形で由美先輩を託した。

ファンタジックだけど、奏太の気持ちを信じられる今なら、そうだといいなぁと思える。

奏太は曖昧に「ん〜」と声を漏らすだけだったけど、きっと同じように考えているはずだ。

だからこそ、彼女たちのために、ここまでできたのだと思う。

恋人としてはその性格が心配でありはするけれど、そういうところも含めてこの男を好きになったのだから、仕方がない。

それに、目の前で困っている由美先輩を見捨てるような男なら、私はきっと惚れ直したりしなかった。

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