くるまのなかで

わずかな外灯の光を絶妙に反射する真剣な眼差しが、私を射抜く。

「私、今でも十分甘えさせてもらってると思ってるんだけど」

甲斐性とかいう考え方で言うなら、奏太は私がこれまでの人生で母の次に頼りにしてきた人物にあたる。

そしてこれからも、どうかそうさせてほしいと願っている。

「甘いね。甘え方が全然足りてない。もっと甘えてよ」

甘え方が甘いからもっと甘えろって、なにそれ。

何も食べてないのに口の中が甘くなってきた。

「それは具体的に、何をすればいいんですかね?」

ごく自然な疑問をぶつけただけなのに、何を想像したのか、奏太は少し照れた顔になった。

「とりあえず、もう少しワガママ言ってくれてもいいんじゃないですかね?」

「どんな?」

奏太はますます照れた顔になる。

「会いたいとか、来てとか、ギューしろとかチューしろとか」

よっぽど恥ずかしくなったのか、奏太は言いながら運転席へ戻っていった。

「そういうのって、私が言わなくても奏太が自分からしてくれるじゃん」

今日だって、私が来てほしいと思う前に、うちの前に来ていたし。

「うん……それ思い出して墓穴掘った。でも俺だって梨乃に求められたいもん」

照れた顔を隠したいのか、口元を手で隠し、眉間にシワを寄せている。

可愛いなぁ、なんて。

来年30になろうという大人の男に対して失礼かもしれないけれど。

「じゃあ、リクエストにお応えして、少し甘えてみましょうかね」

私はそう告げて、装着したままにしていたシートベルトを外した。

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