くるまのなかで

シルビアの中は、あまり広くはない。

たぶんだけど、天井までの高さでいえば、私の軽自動車の方が高いような気もする。

私は助手席の足元に靴を脱ぎ、頭をぶつけないよう気をつけながら運転席へ。

頭ばかりに気をとられ、お尻が一瞬クラクションを鳴らしてしまった。

すでにそこに座っている奏太のひざに、対面で腰を下ろす。

「ちょ、梨乃っ……?」

私の行動があまりに予想外だったのか、奏太は丸い目を余計に真ん丸にして固まっている。

「ギューして」

と言いながら、自分から彼の首に腕を巻き付ける。

奏太が倣うように私の腰に腕を回す。

「チューして」

そう言うと奏太の顔がちょうどいい角度になったので、自分から口づける。

いったん離れると、奏太が不満そうな声を出す。

「なんか、ちょっと違う気がするんだけど」

「そうかな?」

「でも、ビックリするくらいドキドキしてる」

言われて神経を研ぎすましてみると、触れ合っているところから感じる奏太の脈は確かに速い。

私なりの甘え方はお気に召しただろうか。

「まだ私のワガママ、終わってないんだけど」

「え?」

「これ以上のこと、して」

言った瞬間、腰に回されていた腕の力が少し強くなった。

「ここで?」

手入れされている清潔な車内。

誰もいない展望駐車場。

まるで演出のような夜景。

……でも。

「それはさすがにちょっと」

「ですよね」

奏太は笑って、私を膝に乗せたままエンジンをかけた。



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