くるまのなかで
由美先輩は、約一年半前に離婚して以来、パートやアルバイトを掛け持ちしながらカズくんを育てている。
奏太と離れて暮らすということは、“衣・食・住”のうち、最も比重の大きい“住”を丸々失うことになる。
早い話、彼女が自活するためには、自力で住まえるだけの収入がなければならない。
彼女に必要なのは、パートやアルバイトではなく、安心して長期間働ける仕事だ。
彼女自身が言っていた通り、最終学歴が東峰学園高等部卒では、この地域での就職が難しい。
高校のイメージが先行して偏見があり、どこを受けても警戒されるのだ。
幸い、業務委託や人材派遣のため毎日たくさんの採用試験を行っている我が社では、特に“東峰だから気をつけろ”みたいな偏見はない。
しかし、短期以外の採用では「適性検査」と呼ばれる学力検査を含む試験(パソコン実施)があるので、勉強が苦手な私の同窓生たちは、まずここでふるい落とされることが多いらしい。
だから清香先輩は結構貴重だ。
そう本人に伝えると、彼女は笑いながら言った。
「そうなのー? 全然わかんなかったから、選択肢をポチポチ適当に選んだだけなんだけどね」
どうやらこういうことも起こるらしい。