くるまのなかで
明日の穴はまだ埋まっていないけれど、急いで研修の準備を進めねばならない。
パソコンで研修資料のファイルを開き、部数を設定して印刷というボタンをクリック。
新人がこのセンターに出入りするためのカードキーも手配しなければ。
チーフからメールで送られてきた名簿を見ながら座席表を作って、備品庫に事務用品を取りに行く。
今日からの研修を受ける新人は10人。
コミュニケーターの仕事は長続きしない人の方が多く、うちのセンターでも定期的に人材を採るが、今回は夏の繁忙期に向けて、多めに募集・採用したという。
彼らを教育し、一人前のコミュニケーターにするのも私の仕事のひとつだ。
すぐに人が辞めてしまうくらい、精神的にハードなコミュニケーター。
そのハードさをできるだけ緩和してあげるのも、そのために彼女らの機嫌を取るのも、働きやすいよう融通を利かせるのも、私の仕事だ。
リーダーとは、必ずしもみんなを先導したり指揮を執ったりするものではない。
気配りや目配りを絶やさず、みんなの状態や気持ちを汲み取って、物事をスムーズに遂行できるよう配慮し行動する『縁の下の力持ち』である。
それを教えてくれたのは、高校時代の奏太のリーダーっぷりだった。
だから、シフトのドタキャンや突然の研修なんかにイライラしたりオロオロしていてはいけないのだ。
面倒だと思ってしまうのは、私の怠慢に他ならない。