くるまのなかで
研修は、新人たちが集められた部屋に、私が迎えに行くところから始まる。
社員証がないとセンターに入ることができないため、まずは集合場所で社員証の扱いに関する説明を行う。
私は名簿と全員分の社員証、そして諸々の書類を抱え、新人たちの前に立った。
「STVさぽーとこーるのSVを担当しております、小林梨乃と申します。若輩者ではございますが、一応みなさまの直属の上司になりますので、何かありましたら遠慮なく私に相談してください」
今回入社してきた10名の新人は、全員私より年上である。
名簿で確認した限りでは、29歳の及川(おいかわ)さんが最も年の近い女性のようだ。
そして、その及川さんが突然、大きな声をあげた。
「あれ? コバリノ?」
久しぶりに聞いた“コバリノ”という単語に、思わず「えっ?」と声が漏れた。
なぜならその四文字は、高校時代、特に生徒会長をやっている時の私のあだ名だからだ。
及川さんはテンションMAXで私の方へやって来た。
少しぽっちゃりしている彼女は、肌がつやつやでとても若く見える。
緩いウェーブのかかったセミロングの髪に、控えめなメイク。
年齢はひとつ上だし、高校の先輩ということか。
「覚えてないかな? あたし、奏太と同じクラスだった野上清香(のがみきよか)だよー。ほら、テストの時とか、みんなと一緒に勉強教えてもらってたじゃーん」
「ああっ! 清香先輩? あのギャルの?」