くるまのなかで
思い出した。
今はナチュラルメイクだけど、当時はすっぴんがどんな顔かわからないくらいメイクの濃いギャルだったし、結婚して苗字が及川に変わっているから、全然気付かなかった。
そして、やはり少し太ったような……。
「そうそう、あの清香! コバリノ、久しぶりだねー」
「わぁ、懐かしい。お久しぶりです」
驚いた。
地元で働いていると、こういうこともあるのか。
嬉しくもあり、ちょっぴり恥ずかしくもある。
職務中ということもあり、この場ではすぐに研修に入ったが、従業員に先輩がいるという初めての事態に、ずっと緊張してしていた。
そして研修の休憩時間。
「先輩、お元気そうで何よりです」
改めて私から声を掛けると、清香先輩は弾けるような笑顔を向けてくれた。
「コバリノもねー! ていうか、この町にいたんだね。風の噂で県外に出たって聞いてたけど」
メイクが変わって別人みたいだが、高い声はあの頃のまま。
本当に清香先輩本人なのだと実感して、じわじわ感動する。
彼らが卒業するまでは奏太の周辺の人たちとも仲よくさせてもらっていたが、それ以降、全くと言っていいほど会う機会がなかった。
「半年前にこの部署に異動になって、戻ってきたんです」
「そうなんだ。あ、奏太も何年か前にこの町に戻ってきたんだよ。今は県道沿いの整備工場に勤めてるんだってー」
久々の再会となると、彼の話題は避けられない。
「……知ってます」
「えっ? もしかして、今でも連絡取り合ってるの? 超ラブラブだったもんね。別れたって聞いたとき、ほんとビックリしたもん!」
声もさることながら、よく喋るところも変わらない。
「違いますよ。昨日私の車が故障してしまって。駆け込んだ修理屋が、たまたま奏太のいる整備工場だったんです」
私の説明に、清香先輩はキラキラと目を輝かせた。
「なんか、運命を感じるね!」
「そうですか?」
「そうだよ! 運命だよ!」
私もそう感じていることは、恥ずかしいから言わない。
何か特別な引力に導かれていなければ、あんなところで車が止まるわけがない。
……なんて、ドラマの見過ぎだろうか。