くるまのなかで
「なんだか嬉しいなぁ。奏太とコバリノ、全校生徒公認の名物カップルだったもんね」
清香先輩が懐かしむように微笑み目を閉じた。
当時はバッサバサのつけまつげが黒光りしていたが、今は程よくマスカラが乗っているだけ。
「名物って……。奏太が目立つ存在だっただけですよ」
「コバリノだって目立ってたよ」
「やだなぁ。奏太の彼女だったからでしょ」
奏太とセットでは目立っていたかもしれないが、私単品で目立っていたわけではない。
「それだけじゃないって。生徒会選挙の時だって、圧勝だったじゃん」
確かにあの時の選挙では、8割以上の票を得た私の圧勝だった。
そのためか、学園新聞に『驚異の支持率! 小林政権発足』という見出しがついたのを、今でも覚えている。
選挙で戦った相手は同じ特進クラスの男の子だったから、それ以降その男子とはちょっぴり気まずかった。
「それは、清香先輩もそうですけど、みなさんが応援してくれたから」
たぶんだけど、私が8割もの票を獲得したのは、奏太と付き合っていたからだと思う。
もう一人の男子は私より成績がよかったし、すごく真面目そうで、端から見れば不良グループのリーダーと付き合っている私よりずっと生徒会長に向いていた。
でも、そんな彼は、学園のほとんどを占める不良のみんなには支持されなかった。
担任の野中先生は、それをわかっていたから私を立候補させたのだ。
「うちらみたいな人種って、何もしてないのに疑われたりして、嫌な思いたくさんしてたからさ。コバリノは、もちろんこっちが悪い時はそう言うけど、ちゃんとうちらの話を聞いて判断してくれるって知ってたから、みんな応援したんだよ」
そんな風に言ってもらえると、嬉しいけど、照れる。
「そんなコバリノが新しい職場にいて、私は安心して働けるよ。これからよろしくね、小林さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」