くるまのなかで
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紫陽花祭りとは、この町で最も大きな祭りのうちのひとつだ。
大きいといっても田舎なので各地から人が集まるほどの派手な祭りではないけれど、地元民にとっては初夏を感じる大切なイベントである。
開催地は紫陽花が何万株も植えられた川沿いの通りと、その通り沿いにある公園。
時期的に雨になることが多いが、それを見越して屋台には全て雨よけのオーニングがつけられ、雨でも快適、晴れてもそれが日よけになって快適である。
ただし煙はこもりやすいため、服に食べ物のにおいがつきやすいのが難点だ。
祭りでは、とかくヤンキー同士が衝突しやすい。
奏太も祭りに顔を出せば必ず絡まれてしまうので、私たちの間では“祭りには行かない”というのが暗黙の了解となっていた。
その代わり、ゆっくり別の場所を散歩したり、二人きりになれるところに落ち着いてイチャイチャしたりする。
私は人でゴミゴミしている祭りの会場を歩くよりも、そっちの方が嬉しかった。
あの年の紫陽花祭りの日、奏太は私をドライブに誘ってくれた。
訪れたのは、平地である祭りの会場とは離れた、山の上にある公園だ。
年中開放されている駐車場は他に車がおらず、貸し切り状態。
広い駐車場から細くて急な小道に入り、小さな展望駐車場へ上る。
ヘッドライトを消すと真っ暗になるけど、町の夜景が見えてロマンチックだった。