くるまのなかで
「すっごくキレイだね。宝石みたい」
まだ高校生で免許も持っていなかった私は、車があればこんな素敵な場所にも来られるのかと感激した。
私も早く免許を取って、素敵な場所を見つけて、奏太を連れて行ってみたい。
そのために早く大学に合格して、バイトしてお金を貯めて、免許を取らなくちゃ。
奏太が専門学校に入ったら、しばらくは遠距離恋愛になるから、たまに地元に帰ってきたときは私があちこちに連れて行ってあげたい。
当時の私にとって、奏太との未来は根拠もなく明るかった。
このままずっと死ぬまで一緒にいるのだと信じて疑っていなかった。
しかし。
「梨乃。俺、言わなきゃいけないことがある」
「なに?」
「勇気がいるから、一回しか言わないよ」
「うん」
奏太があまりにも真剣な顔をしていたから、ドキドキした。
当時私たちは、付き合ってちょうど2年くらいだった。
私は県内の大学に進学することを決めていたから、来年県外に出る予定の奏太とは離れ離れになる。
もしかして、その前にプロポーズ?
なんて、おめでたいことを想像したりした。
「別れたい」
幸せいっぱいの状態で、誰がこんなことを言われると想像できるだろう。
真っ暗な車の中で、私の頭は真っ白になった。