くるまのなかで
「以上で本日の研修を終わります。お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
清香先輩たちの研修も、そろそろ終盤に差し掛かった。
紫陽花祭りの翌週には、コミュニケーターとして実際にお客さまからかかってきた電話に出てもらうことになる。
高校時代、一緒に勉強しているときは何かにつけて
「もぉ〜マジ意味わかんなぁーい!」
とシャープペンシルを投げ出していた清香先輩も、真剣にレジュメを読み、メモを取っている。
こんな清香先輩、見たことがなかった。
ギャルメイクからナチュラルメイクへの変貌もあって、本当に同一人物なのかわからなくなることも。
「ねぇー、コバリノー」
オフになった途端のこの呼び方は当時のままだから、やっぱり清香先輩なんだなと安心する。
「なんですか?」
「ごめん、仕事のことじゃないんだけど、ちょっと確認しておきたくて」
先輩が珍しく神妙な顔をしている。
「確認ですか?」
あまり大きな声では話したくないようで、先輩は私の近くへ来て、小声で話し始めた。
「コバリノ、“モト”って覚えてるよね?」
モト。
フルネームは本田基博。
奏太の親友であり、私が他校の男子生徒に誘拐された時は、ケンカに参加せず私をバス停まで送り届けてくれたあの人だ。