くるまのなかで

「モトっつったら、やっぱ由美のことが気になるでしょう?」

「はい」

ツンツン系の美人である由美先輩は、どちらかというと姉御肌だった。

美人なのに男前でリーダーシップがあって、快活。

だけどモト先輩の隣にいるときは、乙女のように甘える顔をすることもある。

そのギャップが、とても好きだった。

「由美、しばらくは落ち込んで外にも出なかったし連絡も取れなかったんだけど、復活して県外に出たって、おばさんに聞いたんだ。でもそれからのことは、あたしも知らない。由美がいなくなった後、おばさんも引っ越したみたいだし」

いつも笑顔だった由美先輩が、落ち込んで外にも出られない様子なんて想像もできない。

最愛の彼が突然亡くなって、どれだけの悲しみに堪えたのだろう。

振られただけで人生が終わった気になっていた自分を、密かに反省する。

大好きな人を亡くした悲しみは、きっとあんなものじゃない。

だってモト先輩には、どう頑張っても二度と会えないのだ。

少なくとも、死ぬまでは。

「そうですか。由美先輩、元気にしてるといいですね」

「うん」

奏太のことも気になる。

一番の信頼を寄せる親友を亡くしたのだから、その悲しみは計り知れない。

そういえば、私たちが再会してからというもの、一度も現在のモト先輩の話題にはならなかった。

モト先輩の登場する話は何度もしたのに、だ。

今思えば、奏太がうまく避けてたようにも思える。

その時の悲しみを思い出したくないからだろうか。

何も知らずに私から『モト先輩は元気?』などと聞かなくてよかった。



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