くるまのなかで
この週の土曜日、紫陽花祭り当日。
祭りの効果なのかは不明だが、土曜なのに入電件数が少なく、仕事がいつもより早く終わった。
といっても時刻は21時半。
祭りはもう終わってしまっている。
今日は別れてちょうど10年の、節目の日だ。
せっかく早く終わったし、奏太に連絡してみようかな。
毎日とりとめのないメッセージをやり取りしているが、先週の金曜日以来、会ってはいない。
紫陽花祭りと聞けば振られたことばかりを思い出して悲しい気持ちになっていたけれど、もし今日会うことができたら、少しは嬉しい日になるかもしれない。
センターを出て、ロッカールームで携帯を確認。
メッセージを受信したことを知らせる緑色のランプがチカッと光った。
もしかして、奏太?
期待を胸にホームボタンを押すが、メッセージの送信者は奏太ではなく、友人だった。
なーんだ、なんて思っちゃいけないけど。
期待してしまった分、残念な気持ちにはなる。
奏太にとっては、私と別れた日なんてどうでもいいよね。
だって、自分が振ったんだもんね。
それに、奏太にとって紫陽花祭りはきっと、私との別れよりもモト先輩の死のイメージが強いはずだ。
今頃モト先輩を思って悲しい顔をしているかもしれない。
私は友人に返事を打って、ロッカールームを後にした。