くるまのなかで

今夜は奏太が私のアパートに迎えに来てくれることになった。

各々目的地へ向かうのではなく、一台に乗り合わせて行きたいのだという。

私が自宅アパートに到着し、駐車場に車を停めたところで奏太のシルビアが路肩に停まったのが見えた。

部屋には入らず、彼の車へと駆け寄った。

助手席のドアを開けて、落ちるように座る。

この感覚も久しぶりだ。

「すごい! ベストタイミングだったよ」

私がそう言うと、奏太は得意気に、

「交差点のコンビニにいたんだよ。梨乃の車が見えたところで、追いかけただけ」

と種明かしをする。

「なーんだ。偶然かと思って感動したのに」

奏太に会えるのが楽しみで気持ちが迫っていたから、途中のコンビニなんて気に留めなかった。

普段は白の似たようなスポーツカーが見えただけでも、いちいち奏太でないかナンバーを確認してしまうのだが。

シルビアは普通の車より、エンジン音が大きい。

奏太は夜の住宅地を走るとき、できるだけ静かに走るようにしてくれる。

そういう気遣いができるところが、さすがというか、好きだなぁと思う。

夜もだいぶ温かくなって半袖の服を着ている奏太。

やっぱり高校生の頃よりも腕が太くなっている。

上腕も前腕も、全体的にムキッとしている。

仕事をしているうちに筋肉がついたのだろう。

たくましくなった彼に触れたい衝動を抑えるのが大変だ。

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