くるまのなかで

「そんなに見られると、運転しづらいんだけど」

「えっ、ごめん!」

反射的に謝ると、クスッと笑われてしまった。

見ているのに気づかれてた……恥ずかしい。

「俺に何かついてる?」

「そうじゃないよ。なんか、腕の筋肉すごいなーって思って」

正直に思ったことを話すと、奏太は照れながら自分の腕をさすった。

「整備士って、わりと力仕事だからね。部活で運動とか全然やってなかったあの頃より、おっさんになった今の方がよっぽど体力あるんだよ」

「おっさんって、まだかろうじて20代じゃん」

「かろうじて、ね」

車はしばらく大通りを走っていたけれど、警察署前の交差点を左折して、細い道へ入って行った。

私はこの道を使ったことがない。

急に街灯が少なくなったし、対向車とすれ違うときは道を譲り合わなければならないくらい道幅が狭くて、なんだか少し緊張する。

「ねえ、どこに向かってるの?」

尋ねるけれど、奏太は微笑と曖昧な返事でごまかす。

「もう少し行ったところだよ」

この道を使ったことのない私には、この先に何があるのかわからない。

わざわざこの日に、こんな時間に、私についてきてほしかった場所。

いったいどこなのか、全く見当もつかない。

しばらく走ると、少しだけ広い通りに出た。

広いといっても山と田んぼと畑しかないような道で、夜である今は車通りも少ない。

『動物注意』と描かれた上にイノシシのシルエットが描かれた黄色の看板がやけに眩しく見える。

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