くるまのなかで

イノシシの看板から数百メートル進んだところに、真っ暗な中、信号が眩しい交差点あった。

奏太はその交差点を右折。

山を登る細い道へと入って行った。

「もうすぐ着くよ。寒いかもしれないから、これ、着といて」

逞しくなった腕を後部座席へ伸ばし、掴んだ何かを私の膝に乗せる。

どうやら彼のパーカーのようだ。

「ありがと。でも、奏太は寒くない?」

「俺は平気」

奏太の服を着られるなんて、ちょっと嬉しい。

私はついつい上がってしまう口角を抑えながら、シートベルトをつけたままパーカーを羽織った。

この道を走る車は私たちだけだ。

山を登りはじめて以来、対向車すら見ていない。

序盤は道の両側を木で覆われたゆるいカーブが続いたが、突然左側の視界が開け、山際数百メートルの直線道が表れた。

直線の終わりにはオレンジ色のカーブミラーがあり、シルビアの低いヘッドライトがその足元にある何かを照らし始めた。

「え……? 何、あれ……?」

私の呟きに、奏太はすぐには答えなかった。

その“何か”の正体が見えてくると、だんだんそこがどういう場所であるかわかってくる。

それが確信に変わると、奏太のパーカーに浮かれていた気持ちが一気に鎮まる。

「ねえ、奏太。ここって、もしかして……」

「聞いたんだ? モトが死んだこと」

シルビアが照らすカーブミラーの足元にあったのは、いくつかの花束と、数本のコーラ。

コーラはモト先輩の好物だった。

つまりここは、モト先輩の事故現場だ。

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