精一杯の背伸びを




 榊田君が憎い。


 何も知らないくせに。


 彼の名を汚く吐き捨てた、榊田君が憎い。


 そして。


 私から仁くんを奪った。


 佳苗さんが憎い。


 憎くて仕方がない。


 でも、それ以上に私は。


 私は仁くんを。


 だから嫌だった。


 線を引いたのに。


 私を選ばなかった。


 仁くんを私は憎んでいる。


 仁くんが憎い。


 どうしようもなく彼が憎い。


 こんな風に、彼のことを思いたくなかった。


 憎くて苦しくてどうにかなりそうだ。


 頭が壊れる。

















「ほら、小春。榊田は出ていったから。ゆっくり寝な」



 仁くん。


 いつも私を救ってくれた手を求める。



「……じん、くん、助け、てよ。ねぇ……仁くん」



 ねぇ?


 いつも泣いてたら、すぐに駆けつけてくれたじゃない?


 私の手を引いてくれたじゃない?


 どうして今は助けてくれないの?


 どうして?


 あの日から閉じこめていた感情と一緒に涙が頬をつたった。


 私は、差し伸べられるはずのない手を求め、彼の名を呼び続けた。





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