精一杯の背伸びを
ここまで彼が女性を毛嫌いするのは過去に何かあったのではないかと、さりげなく聞いたことがあった。だけど
「バカ。マンガの見過ぎだ」と一蹴された。
言い寄られるのが鬱陶しい、それ以上でもそれ以下でもないそうだ。
彼には、そんな科白を平然と言えるだけの洗練された才能と人を惹きつける魅力がある。
仁くんといい、榊田君といい、どう考えても神様は贔屓が過ぎる。
私が一歩一歩踏み外さないように登ってきた階段を彼らは颯爽と駆け上がっていく。
「何だよ。人のことをじろじろ見て」
見られることなんて慣れているくせに、こんな風に私には文句を言う榊田君。
「うーん、榊田君って仁くんとやっぱり似てるな、って思ってただけ」
綺麗な顔の鑑賞は飽きないけど、彼に睨まれるのはイヤだから鑑賞はやめだ。
「どこが?」
「眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群」
端的に彼らを表す言葉がすらすら出る。
きっと、あまりにも聞きなれた褒め言葉だろう。
仁くんや榊田君にとって。
「そんなのどこにでもいる」
彼はつまらなそうに卵焼きを口に放り込んだ。
「どこにでもいるとは言わないけど。優しいところとか、良くわからないけど本質的になんか似てるんだよね」
「自分で良くわからないことを口に出すな。こっちがもやもやする」
そんなことを言いながら、少しももやもやしていない榊田君に苦笑いしながら、私も卵焼きに手を伸ばした。
うん、上出来だ。