精一杯の背伸びを




 榊田君には悪いが、女性が彼に熱を上げ言い寄って来るのは仕方がない。


 切れ長な目が印象的な端整な顔立ちに、飾らないクールさは人をとりわけ、女性を惹きつける。


 これだけモテると同性から反感を買いそうなものだが、男性陣からはさらに人気があるのだ。


 何故ならば彼にこっぴどく振られた後、さりげなく慰め役につき、彼氏の座を獲得できるからだ。


 榊田君に言い寄る女性は年下、年上ともに美人が多くて、振られるのを虎視眈々と狙っている男性陣は多い。


 捨てる神あれば拾う神ありとはこの事だと、私は呆れつつも感心した。










 そんな何かと注目を集める榊田君と私は恋人同士だと思われている。


 私たちもそれを否定したことがない。


 だから今では私たちを知る人たちは、全員がそう認識しているのだろう。


 付き合っているという噂が出た時、私は否定しようとしたが榊田君に止められた。



「鬱陶しいから付き合っていることにしてくれ」



 私に好きな人がいるのを知っていて、そんな頼みごとをする彼にすぐさま断りを入れた。


 だが、結局は秘密の契約を結んだ。



「俺とお前の幼馴染が会うことはないし、会っても友達だと言えば済む話だ。お前にとっても悪い話じゃないだろ」



 確かにそれならば悪い話ではない。


 強引ではないが引き下がるわけでもない、そんな風に言い寄られていた時だった。


 私はどう接すれば良いかわからず困っていた。


 しかし、榊田君の彼女ということが広まってからは彼に睨まれることを恐れて、そんな人は現われない。


 きっと垢抜けない私にちょっかいを出してみようかという程度だったのだろう。


 榊田君も彼女である私がいつも近くにいるということで告白の数が減ったらしい。




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