精一杯の背伸びを




 それを待っていましたとばかりに榊田君は声を出して笑った。



「お前ら本当にお似合いだな。広也だって、それ読めないだろ?」



 広君の表情で読めてないことが一目瞭然だった。



「まぁ。気にすることはない。鍋敷きに使える」



 慰めの言葉を榊田君は必死に笑いを押し殺し言った。



「そうだよ。あずきちゃんのサインとして飾るも良し!鍋敷きにするのも良しだよ!一層、どっちともで使うとか!」



 私も広君の肩に手を置き慰める。


 そうすると、広君がうつむいたまま目だけ榊田君に向けた。



「おい。何故俺だけを睨む。今のは水野のほうが酷いだろ」



 名指しされた私は、ぎょっとして榊田君と広君を相互に見た。



「えっ!?私!?」



 広君は顔を勢い良く上げ、榊田君を鬼の形相で見る。



「小春ちゃんには俺を励まそうという深い愛情があるけど、俊。お前には海よりも深い悪意を感じるんだよっ!




「うるさい。あずきの文字が下手なのは俺のせいじゃない」



 ……こうして、三人の夜は騒がしく更けていった。






< 62 / 233 >

この作品をシェア

pagetop