~Still~
「奇をてらっては、良い酒など出来ません。それは雅社長と全く同感です。
ですが僕は幼い頃から不思議だったんです。
どうして杜氏は男だけで、蔵は女人禁制なのかと。
はっきり言って僕は、根強く残る、日本酒は男の飲み物だという雰囲気を壊したい。
……ある日、コンビニで一人の女性に出会いました。
彼女はしばらく日本酒を眺めていましたが、結局ワインを買って店から出た。
僕は思わず追い掛けて、日本酒を見つめていたのにそれを買わず、ワインを買った理由を尋ねました。すると彼女は言いました」

颯太はここまでいうと一旦言葉を切り、会場を見つめたが、再び口を開いた。

「彼女は、『飲んでみたいけど、日本酒を買うのが恥ずかしい』そう言ったんです」

颯太は尚も続けた。

「ワインなら躊躇いなく買えるのに、日本酒は、恥ずかしい。買っている姿を見られたくない」

会場は、颯太の話を聞き逃すまいとでも言うように、静まり返ったままであった。
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