午前0時の恋人契約



「……ううん。お父さん、違うの」

「え?」

「ごめんなさい、私……嘘、ついてた」



深く下げた頭に、目の前の父と隣の貴人さんが驚いているのだろうことが想像つく。

驚いているだろう、怒られるかもしれない。だけど、聞いてほしいよ。私の気持ち。



「私、お見合いしたくなくて……貴人さんに彼氏のフリをしてほしいって、頼んだの」

「すみれ!?お前、なに言って……」

「でも、やっぱりこのままお父さんにも貴人さんにも本当の気持ちを黙ったままでいるのが正しいとは思えないから」



顔を上げて、背筋を伸ばし、真っ直ぐにその目と向き合う。

目尻にシワの寄った、苦労と年齢を重ねた父の顔をこうしてしっかりと見つめるなんて、子供の頃以来だ。

不安と緊張、少しの気恥ずかしさ。それらを全て抱きしめて。



「彼氏のフリをしてもらっただけだけど……私ね、貴人さんのことが、好きなの」

「え……?」



『好き』、そう言った私に、隣の貴人さんの驚いた視線が向けられる。



「貴人さんといたから変われたことが沢山あって、ずっと嫌いだった自分のことも、好きになれた。まだ怖くて、勇気が出ないことも沢山あるけど、それでも頑張りたいって思えるようになった」



こんな自分嫌いだって、思っていた。弱くて、情けない。上辺だけの人間。

だけど、彼の言葉で変わる心を恐れることなく受け入れられる。

変わりたい、変わっていきたい。もっともっと、誇れる自分でいたい。



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