午前0時の恋人契約




「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」



やってきたのは、駅前の道から一本細道に入った奥にある、いかにも穴場といったようなひっそりとした佇まいの小さな喫茶店。

オレンジ色の照明と、茶色い木製のテーブルたちがレトロで可愛らしい。



店内には一番隅に座る私たちと、離れたカウンターに中年夫婦がいるだけで、マスターは常連らしいその夫婦とのおしゃべりに夢中だ。

そんな中でオーダーを聞きにきた若い女性店員に、岬課長は慣れた様子でメニューも見ずに答える。



「ホットコーヒーひとつ。そっちは?」

「あ、同じ……で」



それに合わせて答えると、女性は「はい」とカウンター奥へと向かって行った。

ふたり残されたその場には、店内のクラシックのBGMだけが流れる。



……本当に、あの岬課長なのかな。

実は同姓同名で顔が似ただけの人だったり?双子の兄が課長のフリをしていたり?

いや、でも私のこと知っているふうだったし、岬課長が双子だなんて聞いたことがないし……。



ってことはやっぱり、本人?

いやいやいや。でも、でもね。あの岬課長だよ?

自分にも他人にも厳しく、仕事も出来るあの課長だよ?

レンタル彼氏だなんて、しかも私の彼氏役だなんて……そんな。



ありえない、そう何度も心の中で繰り返すものの、目の前の顔は見れば見るほど変わりのない、目鼻立ちのはっきりとした岬課長の顔。



「なんだよ、人の顔よく見て」

「えっ!?あっ、すみません……えーと、その」



どう問えばいいのだろうか、というか、聞いてもいいのだろうか。

考えると詰まってしまう言葉に、それを読み取るように課長は腕を組み口を開く。


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