午前0時の恋人契約
「……まぁ、お前の言いたいことはなんとなく分かる。俺だってまさか、部下が彼氏をレンタルするほど異性に縁遠いとは思わなかったよ」
「って、違います!そういうわけじゃありません!」
「冗談だって。お見合いを断るため、だっけ?お前が社長令嬢とは知らなかったな」
からかうように言う課長に、先ほどの女性店員が「お待たせしました」とコーヒーを置いていく。
テーブルにふたつ向き合うように並んだカップからは、濃いコーヒーのいい匂いが漂った。
「……あの、岬、課長」
「なんだ?」
「ちょっと頭がついていかないんですが……課長って、こういう仕事もしてたんですか?」
思い切って問いかけた内容に、岬課長は眉ひとつ動かさず普通の顔でコーヒーをブラックのまま一口飲む。
「あぁ。あくまでも副業として、だからこうして仕事の後とか休みの日とか、空いた時間に少しだけな」
「副、業……」
「そう。それでたまたま、昨日あのババ……いや、社長から受けた話が、お前の彼氏役だったってわけ」
やっぱり、本物の岬課長らしい。
普段は普通に仕事をして、空いた時間にはレンタル彼氏として働いて……。
純粋にすごいと思えてしまう反面、知ってはいけない一面を知ってしまったような気が……!
心の中でひやりと汗をかきながら、私も同じくコーヒーを飲むのに砂糖を入れた。
黒い水面に溶け込む砂糖は、見た目には分からずコーヒーを甘く変えていく。
続いてミルクを入れたところで、彼は「さて」と鞄を開ける。
いつも通勤時に持ち歩いているものと同じ、茶色い革製の鞄。そこから取り出された一冊の薄い冊子を、彼は私へ差し出した。