午前0時の恋人契約
左手につけた白い革のベルトの腕時計が、夜19時を指そうとしている頃。
私はバタバタと、黒いストラップつきのパンプスの足元で、必死に新宿駅の中を走っていた。
ま、まずい……遅刻する!!
結局あの後追加で仕事がきてしまって、必死にやったものの終わったのは会社を出る予定の時間を大幅に過ぎており……。
化粧を直す時間すらもなく会社を飛び出し、電車に駆け込み、降りてからは待ち合わせ場所に向かいまた走っている。
岬課長はとっくにあがっていたし、もう来てるよね。
待たせるってだけでも気まずいのに、遅刻だなんて……1分すらもできない!!!
平日夜の、人の多い駅の中。いつもだったらぶつからないようにと、ゆっくり流れに乗りながら歩くしかできないけれど、今はそれどころじゃない。
少し長めの丈のスカートを揺らしながら、人と人の間を素早く抜けていく。
東南口、東南口っ……。
すると、駅を出た先に見えた姿。それは先ほどまで社内で見ていたものと同じ、ダークチャコール色のスーツを着た背の高い岬課長。
やっぱり待たせてた……!
予想通りの彼の姿に一瞬焦るものの、ふと気付く。
こちらに気付くことなくスマートフォンをいじりながら立っている。
それだけの姿にもかかわらず、すらりとした脚と小さな顔、通った鼻筋、と全てが整っている彼のオーラは会社で見る以上に目立つこと。
現に近くを通る女性は自然と視線を向けているし、『かっこいい、待ち合わせかな』なんて噂話をする声まで聞こえてくる。
さ、さすが岬課長……待ち合わせをしているだけで、こうも目立つだなんて!
確かにこう見ても、オーラがあるというか、他の男性とはどこか違うというか……。
かっこいい、というのは会社でも当たり前に聞く言葉だし、確かにそう思うけれど、外で見るとこうも違って見えるのかと驚くとともにたじろいでしまう。