午前0時の恋人契約
あ、あんなすごい人と、仮とはいえ恋人だなんて……いいのかな。
隣を歩くことさえ恐れ多い気がしてきた。あぁ、どうしよう。帰りたい。
行かなきゃ、でも、けど、とあれこれ考えてしまい進んだり戻ったりする足。
けれどそんな妙な動きのせいで目に入ったのだろう、岬課長はスマートフォンをポケットにしまいこちらへ近付いてくる。
「遅い。なに人を待たせてウロウロしてるんだよ」
「すっすみません!岬課長……じゃなくて、貴人さんがかっこよくて、近寄りがたくて!」
「はぁ?」
はっ!つい言い訳が考えつかなくて本音を言っちゃった!
バカにしてると思われたらどうしよう!
違うんです、バカにしているわけじゃなくて、本当にそう思ったから……!
けれど彼は怒るどころか、心の中で必死に弁解する私の前で、「ぶふっ」とおかしそうに笑う。
「へ?なんで……」
「なんでって……お前、それ普通本人に言うか?あー、面白い」
「あ……」
言われてみれば……!
あぁもう、恥ずかしい。怒られなくてよかったけれど、またマヌケなところを見せてしまった。
でも、おかしそうに笑うその表情は、普段無愛想な彼からは見ることのできない笑顔で、ちょっとめずらしい。
「じゃ、行くか」
「あっはい!」
いつもは数歩先を行く足と、並んで歩く。
岬課長ではなくて、貴人さんとの時間の始まりだ。そう、実感する。