午前0時の恋人契約
「失礼致します。お食事をお持ち致しました」
ほんの少しの沈黙をやぶるように、戸を開けたウェイターに、貴人さんは重ねた手をそっと離す。
そのタイミングでテーブルに置かれた白いお皿には、綺麗に盛り付けられた白身魚のソテーや小さなサラダ。
ミルフィーユ状に丁寧に重ねられた牛肉に添えられたハート形のソースなど、美味しそうという感想より先に「かわいい」の言葉が出てしまう。
これは女の子がよろこぶわけだ……!
このお店がマニュアルにも載って当たり前、と納得も出来てしまう。
「美味そうだな」
「はい、じゃあ早速……いただきます」
ナイフとフォークで綺麗に切り分け、そっと口に含む。魚の甘みとソースの味がほどよく絡んで、おいしい。
「おいしい!」
「一応有名店だからな。うちの社長がここのオーナーと知り合いだとかで、なかなか取れない予約も優先的に取らせてくれるんだと」
「へぇ、さすが桐子さん……」
顔の広そうなあの社長さん、桐子さんならレストランのオーナーとつながりがあってもなんら不思議ではない。
納得しながら、ぱく、ぱく、とお皿の上の魚や野菜を次々と口へ運んでいく。
うん、やっぱりどれを食べてもおいしい。
ついほころぶ顔でなにげなしに目線を前へと向けると、目の前の貴人さんはフォークを持つ手を止めたままこちらを見て笑っている。
「どうかしましたか?」
「いや、美味そうに食うなと思って。『おいしい』って顔に思い切り出てる」
「えっ!?本当ですか!?」
そんなに顔に出てた!?
また恥ずかしいところを見られた!とフォークを置き顔を押さえた私に、貴人さんはふっと笑って野菜を一口食べた。
「別に隠す必要ないだろ。素直でなにより」
「い、いえ、恥ずかしいです……!いい歳して子供みたいで……」
「子供だって大人だって、正直が一番だろ。気にせず食え」
そう言われても……意識すると、気にしてしまう。
一度少し落ち着こう、とグラスの中のワインを飲めば、それまでの味をかき消すような予想以上の苦味に、これまた正直に眉間にシワが寄ってしまうのを感じた。
「……本当、素直でなによりだな」
そんな私を見て苦笑いを見せると、貴人さんは個室のドアを開けウェイターさんを呼ぶ。