ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
「俺はそんなこと言ってないからな! 萌の後輩が勝手にニュアンス変えて文字に起こしただけで……」


響さんが目の下を赤く染めて、ムキになってお義母様を止めた。


「でも、記事になる前に響のところにも確認依頼はあるんだろ?」


お義母様の手元を覗き込んで、お義父様が私に尋ねてくる。
はい、と小声で返事をしてから、チラッと響さんを窺い見た。


「もちろん後輩もその手順は踏んでるんですけど……。
響さん、ちょうど仕事立て込んでて、最後まで目を通さないでOKしちゃったらしくて」

「なんだ、じゃあ響が悪いんじゃないか。言っとくけど、訴えたところで無駄だぞ」


さすが、弁護士のお義父様。


響さんはナプキンで口元を拭いながら、不機嫌そうに目を逸らす。


「だから、別に文句は言ってない。ただ、行内で知り合いと顔合わせる度に冷やかされるんで困るだけだ」

「ほ、本当にすみません……」


響さんの不機嫌に共鳴して、私は申し訳なさで身体を縮込ませる。


「でも……」


響さんの苦悩は私にも同じように振りかかっている。


『地味で目立たない平凡以下の女』が、『極上のプレイボーイ』に選ばれた理由。


行内にはびこった七不思議の謎が、この記事のおかげでどうやら勝手に解釈されてしまったのだ。


『ああ見えて倉西さんを翻弄する魔性の女』


今じゃ行内どこを歩いてもなんだか視線が痛い。
部署の飲み会に参加すると、九割九分、二次会でこの手の話題をぶつけられる。
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