ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
なのに、響さんはガシガシと頭を掻いている。


「いや、夕食じゃなくて」

「あ、夜は予定ありますか? だったら日曜日でも……」

「違うっ! ……せっかくの休みだし、どこか行くか?って思ったんだけど」

「えっ!?」


予想外の『お誘い』に、ドキンと鼓動が一つ跳ねた。


お休みに、響さんとお出かけ出来るなんて。
夢みたい。
それになんだかデートみたい……と気持ちが浮かれたところで、私はハッと我に返った。


「だ、ダメです、響さん。お出かけはダメ!」

「え?」


だって、どこで誰が見てるかわからない。
自分にそう言い聞かせながらブンブンと強く首を横に振る私に、今度は響さんが目を丸くした。


「響さんも、環境変わって疲れてるでしょう? だから、ゆっくりしましょう? 私、頑張ってお料理しますね!」

「……あ、そ」


どこか不満そうな声を聞きながら、私はシンクに向き合って水道の蛇口を捻った。
サーッと冷たい水が流れ出して、ゆっくりと洗い物を始める。


背中で、バタンとドアが閉まる音を聞いた。
ちょっとだけ振り返ると、響さんの姿は寝室に消えていた。


カチャカチャと音を立てて食器を洗う。
流れる水をぼんやり見つめながら、なんとなく手を止めた。


「……あ」


小さな声で呟いて、もう一度閉じたドアを振り返った。


響さんの好きな食べ物、聞きそびれちゃったな……。


そんなのいつでも聞けることなのに、そればかりを失敗だと思い込む。


そうして、せっかくのお誘いをフイにした寂しさを紛らわせようとした。
< 47 / 224 >

この作品をシェア

pagetop