ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
定時で仕事を終えて、デスク周りを片付けてからオフィスを出た。
ビルから出る前に一度トイレに行っておこう、と、エレベーターとは反対方向の廊下に突き進む。


パウダールームに足を踏み入れようとした時、信じらんないよね~と大きな声が聞こえて来て、思わず立ち竦んだ。


「広報部の子なんでしょ? 私今日初めて顔見たけどさ。
別に取り立てて美人でもないし、大人しくて親父受けだけが良さそうな女じゃない」

「あの倉西さんが身を固めたっていうから、どんなすごい女なのかと思ったら、……ね~」


遠慮なく繰り広げられるトイレの噂話。
何をどう聞いても噂されてるのは私だと思うと、さすがに中に入って行きづらい。


クルッと身体の向きを変えて、外の壁に身体を凭れ掛けた。


「あ~あ。なんか超残念! あんな子でいいなら、私も一回くらいお願いしてみれば良かったなあ」

「今からでも遅くないんじゃない? 倉西さんって元々何人もセフレいたって聞くし」

「だからこそ変な想像しちゃうよね。あんな大人しそうに見えて、どんなすごい女の武器を使ったのか」

「あ~、気になる、それ! 会社では地味に見せかけておいて、結構派手に遊んでるタイプなのかもよ?」


勝手な憶測で盛り上がった挙句、そこから更に想像を働かせて、二人の女性はきゃあ~!と意味不明な悲鳴を上げた。


「むしろその方がムカつく! って言うか、どんな女だとしても倉西さんを一人占めしてるかと思うと腹立つ」

「結構直ぐ離婚するんじゃない? 別れるの待ってみるのも手かもしれないよね」


結婚したばかりなのに、勝手に離婚を予測されるのはさすがに面白くない。


私は中に入るのを諦めて、一つ大きな溜め息をついてから、今来たばかりの廊下を俯きながら引き返した。
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