ラブレッスン
『屋上に繋がる階段に落ちてたんです。だからもしかしてと思って。』





「ありがとう。落としてた事に全く気づいてなかったわ。」





そう言って差し出された本に手をかけて受け取ろうとした。





「!?」





てっきり返してくれるものと思ってたのに

私が本に手をかけても、彼は本から手を離してくれない。





不思議に思って見上げると




笑っていたはずの彼の顔は、能面のように無表情なものになっていて。





私をジッと何も言わずに見ている。





な、何なの?





「あの、手を離してくれる?」





そう言っても、聞こえなかったのか動かない彼の目から



なぜか目を逸らせずにただ見つめていたけれど




それもたぶんほんの数秒の事で。





彼は何も言わずに小会議室を出て行ってしまった。






な、何だったの?





私を観察するようなあの視線。





笑ってたかと思えば今みたいに冷たい顔になって…。




彼って二重人格なんじゃないのかしら?





結城歩が居なくなって一人になった瞬間、最後の視線に緊張していたのか、

冷や汗をかいてたことに、気づいたのは小会議室を出る頃だった。





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