理屈抜きの恋
最上くんに心が動かなかったわけではない。
現に真美ちゃんのパーティーで抱きしめられて誘われた時は普通にドキドキした。

「私は何かと理由を付けて恋から逃げているだけだよ。」

最上くんのことで言えば、最上くんの理想の女性は細井さんのように可愛らしく従順な女の子だと勝手に思っていた。
それに私よりもずっと最上くんの事を好きで、彼女になりたいって思っている人は身近な例で言えば研修中にお世話になった小田先輩がいるし、他にも把握しているだけで5人はいる。
その人たちを蹴散らしてまで最上くんの隣を取りたいとは思わない。

ちなみに社内の男性に目を向けないのは、上手くいかなかった場合に仕事がやりにくくなる可能性があるから。

学生の時や合コンでは、好きな人が誰かと重なることで仲違いしてしまうのが嫌だから。

「私はずっとそうやって恋愛を遠ざけて来たの。」

「どうしてですか?」

「撫子は純愛を見付けたいのよ。」

私への質問の答えは真美ちゃんが代わって答えてくれた。

「純愛って何ですか?」

その人のためなら自分の命を犠牲にしてもかまわないというような愛だと伝えると「重い」と言われた。

「恋ってそんな理屈じゃないと思いますけど。ね、真美さん?」

「うーん。まぁ、そうかもしれないね。コントロール出来る程度の気持ちは真剣な恋じゃないかもね。でも、撫子の言う恋より仕事もそれはそれでいいんじゃない?」

同期の真美ちゃんは入社してからの私のことを親よりもよく知っている。
知っているからこそ、私の意見にも同調してくれた。

「私は好きな人が頑張っている姿を見れば見る程、私も頑張ろう、って思いますけどね。だから社外で何しているか分からない人よりも社内の人の方が好きになります。」

「そうなの?」
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