理屈抜きの恋

「くそ。なんで出張なんだよ。」

せっかく撫子と気持ちが通じ合ったというのに、なんで1週間も出張に行かなくてはならないんだ。
しかも同行者は祖父と祖父の秘書だけ。

「帰りてー。」

「何だと?」

新幹線の隣の座席に座る祖父が俺の独り言に反応した。

だいぶ年寄りで体力は衰えているくせに地獄耳は衰えないらしい。

「何でもないです。」

と言ったけど、隣では出張の大切さを懇々と話し始めた。

そんな事分かっている、と言いたいのをなんとか堪え、話を右から左に流す。

「おいっ!聞いているのかっ!」

「あぁ。」

「聞いていなかっただろ。全く、こんな男相手にあの子はよくやってくれているよ。」

「あの子?」

「神野くんだよ。あの子を秘書に付けて良かっただろう?」

そういえば俺と撫子が出会うきっかけを作ってくれたのは祖父だったな。
キューピッドって柄じゃないけど、そこら辺は感謝しないといけないか。

お礼の意味も込めて頷くと、ニヤリと笑った。

「お前、彼女に惚れたな?」

「な、何でだよっ!?」

「おぉ。焦っている、焦っている。」

「焦ってねーよ!」

「ほぉ?社会人になってからは敬語で話すようになっていたのになぁ。なんでタメ口かのぉ?」


洞察力に優れている祖父の能力がこんな時は恨めしい。
プイと顔を背けると「ククク」と笑われた。
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