理屈抜きの恋
『最上の話とは?』

小会議室に移動し、そう切り出すと小田は最上の様子がおかしい本当の理由を説明したいと言い出した。

『最上くんは撫子の気を引くためにわざと情けない姿を見せています。』

『わざと?いや、それは信じられない。仕事にまで影響しているんだぞ?それに、最上は君と付き合っているのだろう?』

『いいえ。私は最上くんに利用されているに過ぎません。初めはそれでも良かった。でも、副社長に呼び出される程、仕事に支障が出てしまってはもう黙っていられなくなったんです。』

『最上は君に脅されていると言っていた。外村とかいう男も君が嗾けたと。』

『外村さんは元々撫子のことが好きでした。誰が嗾けた訳でもありません。ただストーカーっぽくなっていたので撫子に危険を知らせる意味でわざと外村さんがいる場で撫子の本心を言わせたんです。』

『でも傷ついた撫子を守ったのは最上だと…』

『あの頃は純粋に助けたかったのだと思います。』

『あの頃は…とは、いつから変わってしまったんだ?』

『副社長の存在を意識するようになってから、でしょうか。厳密に言えばパーティーの日からです。』

『もしかして、ホテルでキスをしたのは写真で脅したからではないのか?』

『写真に関しては全く身に覚えはありません。キスに関しては騙されたんです。』

『騙された?』

『私は最上くんのことが好きでした。でも撫子には適わないと分かっていたんです。だから告白なんてしなかった。ただ最上くんの想いが撫子に届かないことも分かっていましたから、いつか傷ついた時、私がそばにいられたらそれでいいって、そう思っていたんです。』

『その気持ちを利用されたのか?』

『はい。「撫子に振られた。癒して欲しい。キスをしてもいいか?」って言われました。あとで知ったのですが、あれも撫子に意識させるためにしたことだったんです。キスのタイミングを見計らっていたので。』

『それを信じる根拠は?』

『ありません。私は撫子より最上くんを選んだ人間なので。でも、これだけは言えます。私は最上くんと同じくらい、撫子が好きです。』
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