理屈抜きの恋
正確な予測を立てなかった私のミスだけど、あれに乗ればこの痛みを味わわずに済んだのに。

ついてない。

それでも、高い天井のロビーを抜け、フカフカのカーペットが全面に引かれた廊下を通り、大きなガラス窓から見える外のイルミネーションや、煌びやかな装飾を見れば高貴な気分になる。

やっぱり有名なホテルは格式が違う。

少しだけ背伸びをして、痛む足を庇いながら優雅に歩いてみれば気分はセレブ。

その気分のまま受付に「本日はおめでとうございます。」とにこやかに挨拶してご祝儀を渡すと受付の方に芳名帳への記帳を勧められた。

達筆な字の隣に書くのは躊躇われる。
でも順番だから仕方ないと、渡された筆ペンを持ち、少し屈むと、腰と踵に強烈な痛みが走った。

近くにいたスタッフに化粧室の場所を聞き出し、引きつった顔のまま化粧室の個室に入る。
そして扉を閉め、便座に腰かけ、靴とストッキングを一気に脱ぐと開放感に包まれた。

このまま靴を履かずにいられたらどんなに良いか。

赤くなった踵に絆創膏を張り応急処置を施すも、無残に脱ぎ捨てられているかわいそうな靴に足を入れれば傷の部分が疼く。

優雅な歩きから一転、踵と腰を庇う不恰好な歩き方に戻り、足を庇いながら会場に入ると、中にはすでにたくさんの招待客が来ていた。
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