理屈抜きの恋
「フフ。将棋では負けませんからね。ただ、麻雀に関しては今では私よりも強くなっちゃったんですよね。日曜日まで勉強し直さなきゃ。」

「副社長も勉強してみたらいいんじゃないか?」

「え?」

「負けず嫌いな性格は嫌いじゃないよ。ただ、神野くんに救われているようじゃまだまだだ。彼女に教わって、正々堂々と勝負しなさい。私も仕事では正々堂々とぶつかるようにするから。」

ハッハッハッ、と笑って出て行った鈴木部長は毒気が抜けたようにカラッとした様子で出て行った。

それと同時に俺の敵対心や苛立ちもなくなり、なぜかフッと笑いたくなってしまう。

こんなことが日常茶飯事に起きれば祖父が危惧していた社員たちとの意思の疎通は自然と取れるようになる。

全ては彼女のおかげだ。

すごい女だと思う。

ただ、どうしてもいただけないのがイナゴの佃煮と魚の漢字が羅列されているマグカップとカビの生えたペットボトル。

気色悪いからやめろ、と言ったのに今もなお机の上に置いては、それを眺めてニヤリと笑う。

その度になんなんだ、この女は、と思うけど、彼女からこんなにも目を離せなくなることをもし祖父が予見して彼女を見立てたのだとすればさすがだとしか言いようがない。

初日のキスが響いて警戒をされているけど、必ず彼女を手に入れる。そう決めた。
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