【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
三成と吉継
 佐和山城では三成が出迎え、目
に涙をためて吉継に近づき体を支
えた。吉継は目が見えなかったが
三成が痩せたように感じて体調を
気づかった。
 三成はまるで書物庫のように沢
山の書物が積まれている書斎に吉
継を案内し、二人きりで話した。
「周りは全部、書物です。暇とい
うのはありがたいものですね。忙
しくって読めなかった書物を全て
読み終えましたよ」
 この年で三成は四十一歳、吉継
は四十二歳とそんなに年齢は離れ
ていないが三成は吉継を兄のよう
に慕い敬っていた。
「そうか元気そうでなによりだ」
「はい。人というのは己の行く道
を決めると肝がすわるものです
ね」
「ほぅ。もう決まったか。してど
う決めた」
「はい。まず大坂城に入ります。
それから秀頼様に後見人は輝元殿
だと天下に号令していただきま
す。そして家康を逆臣として輝元
殿に討伐命令を出していただきま
す。それでも家康が刃向かうよう
であれば、伏見城を焼き払い、大
坂城に籠城して迎え撃ちます。こ
の時、場合によっては帝に輝元殿
の居城、広島城にお移り願いま
す。すでに輝元殿には了承をえて
います」
「後は豊臣家を見限った者たちが
どう動くかじゃの」
「そちらの手はずはどうです」
「牙はもいだが、優位は変わって
おらん。予想以上に豊臣家に反感
を持つ者が多い。今の秀頼様にど
れだの効力があるか。もう少し時
があれば家康は自滅するのじゃ
が」
「時のめぐりあわせを嘆いてもし
かたありません。この結果いかん
では異国に侵略されることも覚悟
しなければいけないのです。我々
は今やれることを考えるのみで
す」
「そうじゃの。この話を家康が聞
いて和睦の道を選べばよいのじゃ
が」
「私もそれを願っています」
 吉継は従者を呼び三成の考えを
書いた書状を家康に渡すように命
じた。そして次の日、三成は吉
継、増田長盛、安国寺恵瓊らと
会って相談し輝元を盟主にするこ
とが決められた。この話も吉継に
よって家康に伝えられたが、同時
に長盛からも密告された。
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