【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
増田長盛
 家康は吉継と長盛の情報を照ら
し合わせて嘘がないかを確認する
ほど用心深くなっていた。
 三成が挙兵すると確信した家康
はあえて誘い出すために老臣、鳥
居元忠ら千八百人に伏見城の留守
を任せて会津に出陣した。
 三成と吉継は家康が期待してい
た和睦の道ではなく戦う道を選ん
だことを知ると、やむを得ず輝
元、長盛、長束正家、宇喜多秀家
らと供に挙兵し、大坂城に乗り込
んだ。そして秀頼の正当な後見人
は輝元だと天下に号令した。その
うえで家康に十三カ条の弾劾状を
送った。この時、長盛は京にいる
諸大名の妻子を人質にするように
提案し実行した。このことで細川
忠興の正室、ガラシャが死を選ぶ
など三成らの印象を悪くする結果
となり、家康に味方する者を増や
した。
 それでも西からは諸大名が次々
と大坂に入り、兵の総数は九万三
千人を超えていた。しかし全ての
者が同じ志で集まったのではなく
長盛のように家康と内通している
者や島津義弘のように家康から伏
見城の留守居役を頼まれたが反故
にして来た者、また家康そのもの
に反感を抱く者などさまざまで、
豊臣家を守ろうとする者はごくわ
ずかだった。そうした中に秀秋も
混ざっていた。
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