【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
堺商人
 秀吉は織田信雄を大坂城に招い
た。それは織田家が羽柴家の家臣
になることを意味していた。
 信雄はすぐさまこれを拒否し、
弟、信孝の次は自分に狙いをつけ
た秀吉に脅威を感じて徳川家康を
頼った。
 家康にとって秀吉は信長の足軽
として調子よく動き回っていた頃
の印象しかなかった。その家康に
信雄が泣きついてきたことで秀吉
討伐の大義名分を得ることになっ
た。
 明智光秀の三日天下のこともあ
り、家康は秀吉を簡単に片付け、
自らがいよいよ天下を取る順番が
回ってきたと確信した。そこです
ぐに信雄と同盟を結んだ。
 秀吉は家康と信雄の同盟を知る
と、すぐに近江に行き、千宗易の
茶の湯による錬金術で得た資金力
にものをいわせ鉄砲をすべて買占
めた。そのうえ鉄砲の生産を止め
させた。そしてもう一方の鉄砲生
産供給地、和泉の堺には堺商人で
もある宗易を向かわせ、家康に加
担しないように言い含めさせた。
 商人というのは戦が起きると財
産をすべて失うことがないように
敵味方の区別なく分散投資する。
そうすれば財産の一部は確実に残
るからだ。それが戦を長びかせ泥
沼化させる原因でもある。
 堺商人も宗易が到着した時には
秀吉と家康の両方に投資する準備
を進めていた。
 誰も宗易の話に耳をかそうとは
しないし、宗易も説得しようとは
思っていなかった。ただ、家康に
直接投資するのではなく、他の大
名を介して投資するように示し合
わせた。
< 14 / 138 >

この作品をシェア

pagetop