【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
戦況報告
 秀秋は同年五月に日本に戻り、
すぐに大坂城に出向いた。
 大広間に入るとすでに家康をは
じめとした諸大名が居並び、秀秋
に対する慰労もそこそこに戦況報
告がおこなわれた。
 まず秀秋の軍目付として同行し
た太田一吉が、秀秋の釜山浦城で
の様子や将兵への適切な指示、蔚
山城攻防での戦いぶりをありのま
ま報告した。その内容に失態はみ
られなかった。それを聞いていた
秀吉が口を挟んだ。
「秀秋に聞く。そなたには帰国す
るように再三、三成から要請が届
いておったはずじゃが、なんで帰
国せんのじゃ」 
「お恐れながら、要請は緊急の用
向きとは思われず、総大将が戦場
から軽々しく退くことはできませ
ん。また、敵の動きが慌しくな
り、そのうち、蔚山城が包囲され
たとの知らせがあったので解決を
待って帰国する予定にしておりま
した」
「わしのもとには内々に報告があ
り、秀秋は身勝手な行動が目にあ
まり、軍の規律が乱れているとの
ことじゃったが」
「何を見聞きしての報告かは知り
ませんが、すべての権限は総大将
にあり、命令は総大将から下され
るのが当然。それに背く者こそ軍
の規律をみだしているのではない
でしょうか」
 秀吉の顔色が変わった。
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