【長編】戦(イクサ)小早川秀秋篇
 イソップ寓話集はこの頃、天草
で出版されるようになったのだ
が、その中にライオンとネズミの
話がある。
 ある日、ライオンが気持ちよく
寝ていると、何者かに眠りを妨げ
られた。見るとネズミが顔を駆け
回っていた。
 ライオンは、怒ってネズミを捕
まえると殺そうとした。哀れなネ
ズミは必死に命乞いをした。
「どうか命を助けて下さい」
 そんなネズミをライオンは気ま
ぐれで許してやることにした。す
るとネズミは言った。
「ありがとうございます。このご
恩は決して忘れません。いつか必
ず恩返しを致します」
「お前ごときの恩返しがどれほど
のものか」
 ライオンはそう言うと、大声で
笑ってネズミを逃がしてやった。
 それから数日後、ライオンは、
猟師の仕掛けた網にかかって動け
なくなってしまった。その時ネズ
ミは、ライオンのうなり声に気づ
いた。そしてすぐに仲間を呼んで
ライオンのもとに行き、ネズミた
ちは歯でロープをガリガリとか
じってライオンを逃がしてやっ
た。
 その後、ネズミは言った。
「この前、あなたは私を笑いまし
たが、私にだってあなたを助ける
知恵があるんですよ。どうです、
立派な恩返しだったでしょう」
 秀秋はこの話をいつか実現させ
ると心に刻んだ。
 突然、家康は思い出したように
膝を叩いた。
「そうじゃ、そうじゃ。秀秋殿、
わしのところに浪人がたくさん集
まって仕官したいと言ってきて
困っておるのじゃ。秀秋殿に連れ
て行ってもらえんじゃろうか」
「ははぁ、喜んでお引き受けいた
します」
 秀秋が家康から押し付けられた
浪人は千人に近かった。それらの
中には家康の家臣と思われる者が
多数、含まれていた。それを秀秋
は気にするそぶりも見せず筑前、
名島城に連れて戻った。
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