課長と私
髪の毛を直し、メイクも直した。
冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出して口に含む。
おもむろに出してしまったが、一体1本いくらなんだろう…
あとで彼に言わなくては…
「楓ちゃん、ちょーだい。」
「わー!もう早く服着てください!」
「いいじゃん、タオルしてるじゃん…」
「目のやり場に困ります!」
持っていた水を先輩に押し付ける。
私から受け取ったペットボトルに口をつけつつ携帯をいじる。
「あ…楓ちゃん。」
「はい?」
「近いうちに挨拶行かないとね。」
「…どこにですか?」
私の言葉にフッと口元を緩める。
そんなにおかしいことを言っただろうか。
「結婚…するでしょ?」
「え、あ…」
「結婚の挨拶。楓ちゃんの家と、俺の家にも。」
「うちに…実家に来るんですか…!しかも、先輩のお宅にも!?」
「楓ちゃん、心しておいた方がいいよ。うちは厳しいからね…とくに女性陣が。」
なんとなく背筋がぴんとなる。
嫁姑問題は周りの友達からもやっかいだと聞いている。
先輩の背景にいる家族の様子が全く見えてこない。
彼があまり話したがらないのもあるけど。
「楓ちゃんのお母さんはこの間会ったけど、お父さんはどんな人?」
「うちのお父さんですか?……んー。あんまり喋らないからよくわからないですけど…」
「怒ると怖いとか?」
「あー。小さいときすごく怒られたことがあって、大泣きしました。…今でも覚えてるから、トラウマなんですよね…先輩がんばって下さい!」
「えー…俺打たれ弱いからなぁ…」
ちょっと!
そこは任せて!とか男らしいこと言ってくれればいいのに!