囚われロマンス~ツンデレ同期は一途な愛を隠せない~


送別会会場となる旅館までは車で一時間半。

車は誰が出すかと言えば、支店内で有志を募って、そこに乗車人数内で振り分けられる形だ。

それを毎回誰が振り分けているのかは分からない。

でも、配属されてから二年とちょっと、旅館での歓送迎回をする事、四回。
毎回及川の車に乗る事になるのがなんでか不思議だったのだけど……その理由が、今回ようやく分かった。

手塚先輩が「及川さんって方向音痴なのね」と言ってきたのをきっかけに始まった会話で。

送別会があるなんていう日に限って、勘定が合わない事も結構あるのだけど、今日はきちんと一発で締めが終わり、その後の作業もスムーズに終わったおかげで出発時刻までは少し余裕があった。

だから、更衣室で制服から私服へとゆっくりと着替えている最中に、手塚先輩に言われて。
タンクトップの上にシャツを着ながら首を傾げた。

「方向音痴?」

及川が方向音痴なんて初耳だし、第一違うと思う。
だって、新人研修で本社の中で迷子になりそうになった時とか、率先して戻るルートを教えるのは及川だったし。

それに、ちょっと入り組んだ造りの居酒屋で同期会があった時。トイレから個室に戻ろうとしてみんながみんな迷う事になってちょっとした笑いになっていた中、及川だけは普通に戻ってきてたし。

道には強いって印象があるだけに、眉を寄せていると、ジーンズを履きながら手塚先輩が言う。

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