囚われロマンス~ツンデレ同期は一途な愛を隠せない~


「今日はやけに早いね」
「おー。俺、今日訪問件数少なかったから持ち帰ってきた処理もそんななかったし。ただその分明日が地獄だけど。串田産業の払い戻し持ってこなきゃ」
「うわー……及川からなんとかうまいこと言って、口座振り込みにできないの? 給料現金支給なんて今時、串田さんだけでしょ。ひとりひとりの給料を封筒わけするの、毎回地味に面倒なんだけど」
「俺も毎回言ってんだけどね。会長がいるうちはダメっぽい。現金でもらえるからやる気がでる、みたいな考えだから」

毎月、十八人の給料を封筒分けしているこっちの身にもなって欲しいけれど……恐らく及川の言う通りこの先もこの作業は続くんだろうなぁとため息をつく。
それから、話題を変えた。

「それより、何か用事? ……あ、もしかして大崎くん関連? 何か迷惑かけちゃった?」

お昼の花岡さんみたいに、大崎くんへの苦情かもしれないと思って聞くと、及川は呆れたみたいに笑った。

「いや、違うけど……。深月、随分大崎に振り回されてんね」
「そういうわけでもないんだけどね。コーチャーなんて慣れない事してるから、多少は気が張ってるのかも」
「昼休みも花岡さんに嫌味言われてたしな」
「ああ……。でも花岡さんの嫌味は半分以上ただの八つ当たりだから仕方ないんじゃない?」

「分かってるんでしょ?」と見上げると、及川は口の端を吊り上げて「さぁ、なんの事だか」ととぼける。

花岡さんの好意なんて駄々漏れなんだから、勘のいい及川が気づかないハズがない。
なのに、こうやってとぼけるんだから本当意地が悪いと思う。

「同期で仲がいいってだけで目の敵にされてるんだからね。これからしばらくは大崎くんの事で色々言われるんだろうし本当嫌になる」

はぁってため息をついてから「それより何? 待ってろって、何か話?」と聞くと、及川は「あー、これから時間ある?」と軽く首を傾げた。


< 33 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop