大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜
さやかの隣に立つと、甘い香りがする。髪は茶色に染めてあって、肩までクルクルとしている。つけまつげと、瞳が大きくなるカラーコンタクトは公立高校に通う女の子達のマストアイテムらしい。(後で、さやかが言っていた。)ぷっくりとツヤツヤの唇を尖らせ、
「どおして、急に帰っちゃったの?」と言う。僕はどう、返事をしようかと迷う。
「さっきのすご〜い車、中学の時のお友達?」と僕の顔を見る。僕は
「今は言いたくない。」と前を向くと、さやかはプッと笑って、
「虎太郎君ってオモシローい。元カノでも、友達だって、言っとけばいいのに。」とニッコリする。…あやめが元カノ?
「だいたいさ、虎太郎君は謎すぎる。私立の学校から、来てるって言うのは知ってるけど、王子過ぎるって女の子の間じゃ噂だよ。」…王子って、ナニ?と僕は口を開ける。
「教室の入り口では、女の子のを先に通すし、当番じゃなくても、教材とか運んでると、手伝ってくれるし、教室で、男の子が暴れてると、邪魔になるから止せって止めるし、顔もそこそこイケてるし、おまけに、ケンカも強いの?突っかかってきた男子をうまく避けて、飛んできたパンチをつかんで、捻り上げたってクラスの子が、きゃーきゃー言ってたよ 。」うちはレディーファーストが習慣付けられているだけだし、僕は赤くなって俯く。
「いや、あれは、偶然で…ケンカなんかしたことないし。」と、口ごもる。ナナコの上の兄が空手の有段者で、遊んでもらっているときに教わってただけだ。あーでも、
「弟がいるから、よく取っ組み合いのケンカはしてたかも、…」それも3人プラスリュウだ。さやかはふーんと、納得してたみたいだ。
「虎太郎君の新しい情報ゲット。お父さんはお医者さんで、弟がいて、…お金持ちの元カノがいる。」と笑い、自転車に乗り、
「じゃ、また明日。」と言って、戻って行く。僕はあっけにとられ、
「また、明日。」とおうむがえしに返事をした。……あやめは元カノって訳じゃあないんだけど……

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