恋した責任、取ってください。
7.恋路はまさに縁のもの
 
『じゃあ、19時に会社近くの〝九兵衛〟でどう? 前になっちゃんが恵麻とふたりで飲んでたお店なんだけど』

そうして時間どおりに指定された九兵衛の暖簾をくぐると、カウンター席の端には、もう大地さんの姿があった。

先に来て少し飲んでいたようで、熱燗のとっくりとお猪口が大地さんの前に置いてある。


「……お待たせしました」

「ううん、全然。こっちこそ日曜日なのに付き合わせて悪いね。大将、この子、お酒弱いから、ソフトドリンクを適当に出してもらってもいいですか? それと、すぐ後ろの小上がり席を使わせてもらいたいんですけど」


近くまで行って声をかけると、申し訳なさそうに笑った大地さんは私に隣に座るよう促さず、カウンターの向かい側で料理を作っていた大将さんに私用の注文と席の移動を願い出た。

ちらりと大地さんを一瞥した大将さんは、手を休めることなく「お好きな席にどうぞ」とややぶっきらぼうな調子で言い、すぐにほかの店員さんを呼びつけ、新しく移動した小上がり席にお冷とお通し、それと少し迷ってオレンジジュースを持っていくよう言いつけた。


「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」


一礼して仕事に戻っていった店員さんに軽く頭を下げ、とりあえず大将さんに適当に出してもらったオレンジジュースを口に含む。

それから、向かいに座っている大地さんがそうしているように、私もメニュー表を手に取り、眺めることにした。


メニュー表を眺めながら、そういえばここに来たのは恵麻さんに連れてきてもらったときの一回きりだったな、と思い出す。

あのときは酔っぱらった恵麻さんを迎えに来た御手洗コーチにごちそうしていただいて、一緒に子供向けバスケ教室のコーチを飛び入りでやっていた大地さんも、私を送るために顔を出してくれた。
 
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