恋した責任、取ってください。
 
心の中ではすでに告白している。

けれど名前もまだ名乗り合っていない仲なのでさすがに声に出して思いを告げるわけにはいかないことくらい、私だって分かっている。

いくら恋愛若葉マークでも、分別というか、順序というか、そういうパロセスが大事なことくらい数多の恋愛漫画や小説で学習済みだ。


「……うん、パロセス大事」

「たぶんそれ、プロセスね。何のプロセスを踏むのかは分かんないけど、プロセスだよ」

「はっ!」


心の中でだけ呟いたつもりがうっかり声に出して呟いてしまって、ついでに3回も“プロセス”と優しくツッコミを入れられてしまった。

どうしよう、どうしよう。

これから好感度をどんどん上げていかなければならないっていうのに、バカだとバレたら早速マイナスからのスタートじゃない!私!

言葉が弱いというか、下手なことは分かっているんだけど、パドリングにパロセスって……。

私、破裂音系が残念なんだろうか。


「ふはっ、はっ!って。面白いね、天沢さん」

「どどどどうして私の名前……!?」


いきなり呼ばれた自分の名前に激しく動揺。

でも王子様って基本なんでも知ってるよね、私の苗字くらいエスパー並みの透視能力で見抜けたのかもしれないとすぐに思い直す。


「いや、首から下げてるからね」

「あ、そうでした……」


けれどまたしても私は残念だった。

どこの会社もだいたいそうなっているけど、ウチの会社も社員証を首から下げるのが決まり。

防犯上の安全対策と、どこどこに所属している誰々ですと一目で分かるよう、社員はみんな一様に自分の顔写真入りの社員証を首から下げ、けっこうな頻度で邪魔にも感じつつ、しかし自分のステータスを示すものでもあるので、花形部署の社員なんかは、俺スゲーだろ的な感じで見せびらかすようにプラプラさせている。
 
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